「……」
もうとっくに本を読み終わり、紅茶を楽しんでいた白は、ふと違和感を感じた。
おもむろに扉を開ける。外の景色を見れば、雨が激しく降っていた。
寒いのですぐに閉める。冷えた肌を撫でながら、白はまた椅子に座り、ティーカップを口へと運んだ。
そういえば、だ。
「……」
黒は今頃どうしているのだろう。別に彼女のことはどうでもいいのだが、黒がないと自分は不安でしょうがない。それに、自分の所為で黒に何かあった、などと言うことになれば面倒だ。
悪戯に紅茶の水面を揺らしながら、そこへ黒の面影を浮かべる。
天気も変わっているし、これだけ長い間帰ってこないとなれば、もう死んでいるかもしれない。
「…ふぅ」
一息ついてティーカップを置き、白はベッドに横たわった。
横になって本を追憶する。


男の子が居た。
女の子が居た。
二人は惹かれあっていたけれど、ある日女の子が男の子を怒らせてしまった。
その日から二人はばらばらになった。意地を這って馬鹿みたいにすれ違った。
女の子は自分を責めた。だから手首を切った。
男の子は自分を責めなかった。だから手首を切らなかった。
男の子は泣いた。女の子は一度も泣かなかった。
綺麗な花が飾られた。
そのあとは兎だった。ぴょんぴょん跳ねては、芋虫を潰していく。でも車に轢かれて死んだ。
鳥は鴉と名乗って、青い空を飛んだ。ゴミを集めてはぽい。結局死んだ。
灰色の空には摩天楼が聳えている。二人はその上でおしゃべりをしていた。でも結局、片方の女の子が我慢出来ずに飛び降りて、もう一人も落ちた。勿論死んだ。
ピアニストは指を持っていなかった。女の子がくれると言うので貰うと、一曲目を弾いている途中でぼろりと取れた。そこから沢山の蛇が出てきて、気づいたら死んだ。
とある星があった。男の子は何かを追いかけて、死んだ。
燃えた。死んだ。
校庭の木の根元にはタイムカプセルがあった。掘り起こしたら死んだ。
画家が居た。絵を描いていたら自分が絵の具になった。体の使い方が分からず、死んだ。
海で泳いでいる魚に、変な物が入って、死んだ。
桜が咲く前に梅が散って、誰かが死んだ。
黒が血を流して帰ってきた。白は寝ていて、死んだ。




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